虎班(とらふ)

職人日記

木目には板目、柾目、杢目とあるが、その中でオークの虎斑は、いつ見ても美しい。最近、この感覚が、日本人に失われてきた気がする。

蚯蚓(ミミズ)が這った様な跡はいや!等と居住者から言われ、それを真に受けて、施工時に虎斑の出たピースを取り除くケースがある。

着色する場合、クリアー塗装なら虎斑は目立たないが、濃い色だと、虎斑は色が乗らずに浮き上がって見えてしまうのが通常。予備知識が無いと虎斑を「染み」等と勘違いし、デベやハウスメーカーの営業担当者は的確に虎斑の何たるかを説明出来ず、顧客からの文句だと思って真に受け、結果、床材から虎斑を取り除け!なんて、無茶な指示を職人に出す例が、実に多い。

「印刷物に拠る化粧」が当たり前になっている時代、自然には有り得ない人工柄に見慣れた故の悲しい結果である。

本物を見る目が失われている為に、自前の価値判断が出来ず、結果、自信を持てない、これが今時の人がみな既成のブランドに走り易い所以。ブランドとは品質を保証する最も簡単な証だが、そのブランドは全ての人の個性を的確に映し出せる物では、勿論無い。要は自分にあった物がその人に取って「最良」であるはず。

「染みの出たピースは取り除いてくれ」なんて言う若い営業担当者がいる度に、虎斑の何たるかをいちいちレクチャーしてやるのだ。

※虎斑(とらふ):
オークなどブナ科樹種に見られる班紋。柾目を横切る様な帯状の杢目の中でも、ひときわ班が大きく虎の毛の様に見えるそれの呼び名。柾目挽きオークの象徴的な杢模様。