2006年12月某日 横浜の古い洋館にて

職人日記

ある輸入商社の依頼で、事前現場調査に行く。個人設計家が拘わっているリフォームだと言う。行けば、戸建てというより年代物の洋館と言う建物で、なかなか重厚な作り。

元の床を剥がさず、その上に新たに貼りたいのだが….と施主の言う実物を見て、びっくり!!

汚れてはいるものの見事な無垢のモザイク貼り。今時、こんな貴重な代物が、博物館や美術館で無い一般の個人住宅に残っていたとは…。大袈裟に言えば、床職人として身震いする程の素晴らしい芸術品。

元々の床が如何に素晴らしいか、を設計家を通じ、家主に説明。

「こんな素晴らしい作品の上に、今時の輸入フローリングなど貼ったらいけませんよ。確かに、今は見た目が汚れてみすぼらしいが、そこはこの私が、これまでの技術と想いを結集して、この床に新たな生命を吹き込みましょう」と。

カラーフロアばかり、それも集合住宅の「突貫やっつけ仕事」ばかりに慣れた今時の若手職人に、こんな場面はまたとない勉強の場。早速、弟子を全員現場に呼びつけ、作業に取り掛からせる。

出来上がりは………施主も含め感動そして感動。「人手」と「想い」を掛けて、削り、丁寧に磨き上げ、そして塗り直したその床は見事に生き返った。
そういえば、古いお宝を鑑定して値段をつけるTV番組あったが、今回はまさにその「床」版です。

この仕事、作業内容としては僅かだったので、結果、手にする「工事代」は、微々たる額に終わってしまったけれど、久しぶりに爽快な気分になった帰路であった。職人冥利とは、この事か!?

大切に使って下さいね、施主さん。なんたってこれは立派な先代の遺産です。