2009年12月某日 埼玉の高齢者向養護施設にて

職人日記

月初から、埼玉県内の新築大規模物件に借り出される。高齢者養護施設、フローリングの総㎡数は2100㎡あまり。貼る物と言えば、わざわざ施主が北欧から直輸入したという高級品だ。

現場に積んである梱包を見て、聞いた名前だと思い出す。職人になったばかりの頃(25年!以上前)に経験した、20mm以上の厚みのブナの無垢タイプ。聞けば、特別なノウハウで熱圧圧縮する事で、耐久性と寸法安定性を飛躍的に高めていると言う。久しぶりに見る欧州の純正高級品だ。

施工を開始して、むかしむかしの自分の記憶、とは似ても似付かぬ工法の進化にビックリ!下地材に始まり、糊と釘を使わない工法の為に開発された専用のクリップ兼スペーサー、そして取り回しの良くなったサイズ…..商品のみならず、工法・副資材等あらゆる面から改良が施されている。その目的は「誰でも施工し易く、そしてクレームを起こさない事」こんなメーカーの思いが、我々末端の職人にさえ、ひしひしと伝わって来る。

こんな商品を見る度に思うのが、国産フローリングメーカーや輸入販売業者は、いつまで経っても、製品の性能や意匠性ばかりに目が向いている事か!工法も含めてトータルで物事を捉えるメーカーや輸入業者は、今もって極めて少ない。

現場から見て、進化を遂げているのは、接着剤や釘打ち機等の道具ばかり。工法を含めたフローリング自体は、材料や表面が変わった以外に、実は何の進歩も無い。

例えば、いつでも、誰にとっても部分貼替えを可能にさせ、外したフローリングが多少汚れていても、再使用出来ないのか?と考えた事のある人は、大勢いるだろう。

そんなニーズを正面から捉えて、まともに解決してくれたメーカーが日本にあるだろうか?こんなにエコが叫ばれる時代なのに、今だに木質フローリングの再利用は不可能、として市場に浸透しているのだ。「再利用=新規需要が縮む」….そんな目先の見方ではなく、もっと大きく構えて、ニーズの本質を見極めようとするメーカーの何といない事か!

建材リサイクル法なんて法律でも出来ない限り、こんな日本の悪しき常識は改善されないのだろうか?

その点、この北欧の製品は見事だ。前述の疑問に真正面から取り組んでいる。まだ最終完成形では無いとしても、ともかくメーカーの不断の努力が、びんびん伝わって来る。難しい事は抜きにして、ともかく「この商品に関わる皆んなが、全て納得づくで幸せになるにはどうしたら良いか?」が追求されているのだ。

駆け出しの頃に見たブランドが淘汰されずに、今だに立派に市場で生き残っている….このメーカーの企業姿勢が、市場に評価されている何よりの証だろう。

この北欧のフローリングだったからこそ、今回はエレベーターの中まで貼れた。メーカーの商品改善努力が、エレベーターの中と言う新しい需要を創出したのだ。たった一坪だけど、それでも、こうして全国のエレベーターをフローリングで貼れたら、莫大な需要だ。ここに住むお年寄り達も、さぞかし癒される事だろう。

「工法と商品を、よ~く見て置けよ、遠からずの内に、いずれ日本のフローリングも、大きく変わる」と若い職人連中に、改めて説いてやるのだ。